CCOインタビューVol.2(倉敷中央病院リバーサイド 十河さん)

CCOインタビュー Vol.2(倉敷中央病院リバーサイド 十河さん)

病院経営において院内および地域とのコミュニケーションは非常に重要な要素であり、地域医療連携の推進者が重要な役割を担っています。地域医療連携の推進者は、患者・連携先・自院・地域(自治体等)のすべてのニーズを捉え、適切なコミュニケーションが行える仕組みづくりを行っており、正にCCO*としての責務を担っています。
今回は、倉敷中央病院リバーサイドの十河さんをCCOの2人目としてご紹介します。

* CCO(Chief Communication Officer)とは「組織におけるコミュニケーションの統括責任者」のことです。日本国内の企業においてはグローバルIT企業を中心に任命する組織が出始めています。コミュニケーションが経営戦略においてますます重要度を増す中で、経営陣の一人として、社会の人々との関係に責任を持つCCOを任命する企業が増加しています。

目次

CCO2人目

倉敷中央病院リバーサイド 事務長/全国連携実務者ネットワーク 理事長
十河 浩史 さん

病院を取り巻く環境

公益財団法人大原記念倉敷中央医療機構が、地域住民の皆様に一層の信頼を得られる医療を提供し、地域社会に貢献することを目的に運営する病院の一つです。前身は川崎製鉄株式会社(現JFEスチール株式会社)が従業員ならびに地域住民のために昭和58年4月5日に設立した川鉄水島病院ですが、平成15年4月1日、財団法人倉敷中央病院(平成25年4月1日、公益財団法人大原記念倉敷中央医療機構に移行)に移譲されました。

病院名)公益財団法人 大原記念倉敷中央医療機構 倉敷中央病院リバーサイド
所在地)岡山県倉敷市鶴の浦2-6-11
病床数)一般130床(地域包括ケア病床80床含む)

インタビュー

十河さんは倉敷中央病院に入職される前、民間企業で勤務されていたそうですね。ご経歴と入職のきっかけについて教えてください。

入職前は株式会社ケンウッドに勤務していました。ホームオーディオ事業部に所属し、静岡で営業を、そして東京に異動し商品企画を担当しました。35歳を前に、当時の35歳転職限界説が頭にあり、海外赴任の可能性も踏まえて、今転職しない場合は定年になってから岡山に戻るのかなと考えていました。長男だったので、良い職を得られれば地元に戻りたいという思いもあり、企画職で仕事を探しました。特に「病院の仕事」と決めていた訳ではなかったのですが、ちょうど倉敷中央病院で企画経験者を募集していたので、応募したのが入職のきっかけです。

入職してから現在までの経歴を簡単に教えてください。

倉敷中央病院に入職したのは2003年4月ですが、ちょうど電子カルテを導入する時期でした。混沌とした中で立ち上げの手伝いをしました。翌年2004年はDPC参加の年で、最初に配属されたのは医事課でした。入職してすぐの2年間で、医事の非常に濃い体験をさせていただきました。2005年秋に地域医療連携室に異動し、地域連携活動に携わるようになりました。さらに、2013年に広報室が総務企画部から組織変更になり、活動の幅がさらに広がりました。 2020年に現在の倉敷中央病院リバーサイドに異動し、現在は事務長と地域医療連携部長と健康管理センター部長を兼務しています。

これまでのキャリアの中で印象に残った出来事を教えていただきたいのですが、ケンウッド時代で印象的なエピソードはありますか?

静岡で家電量販店のルート営業をしていた頃、アナログ回線の電話機の売上が達成できずに悩んでいたことがありました。店舗のパートの方に悩みを打ち明けたところ「この辺の人は、電話機は値段の安いホームセンターで買うんだよ」と教えてくれたんです。まさに目から鱗でした。地域の特性に対する理解が浅かったことを痛感しました。同時期に、東京から異動して来られた先輩にも同じ悩みを相談したところ「ランチェスター応用戦略―「売れない時代」の勝ち残り方(田岡信夫著 サンマーク文庫:1993年)」という本を薦められたんです。この一連の出来事がきっかけでマーケティングを学ぶことになり、その経験が病院に入職した後に非常に役に立ちました。

フレデリック・ウィリアム・ランチェスター(1868年-1946)イギリスの自動車工学・航空工学のエンジニア。弱者が強者に勝つための競争戦略論「ランチェスター戦略」が有名で、市場シェアを上げるための事業戦略論として用いられる。

企業と病院ではマーケティングの概念はどう変わるのですか?

民間企業のマーケティングと病院経営は一見関係がなさそうに見えますが、地域の特性を理解した上で、何が必要とされているか、その需要にあった戦略を立て実行するという基本の考え方は同じだと思います。病院が抱えている課題とその解決手法が分かる、『病院経営を科学する!―「問題解決型思考」が切り拓く病院経営の新手法(株式会社メディカルクリエイト著 日本医療企画出版:2003年)』という良書があります。この本を読んだとき、ケンウッドで実践してきたことと繋がり、病院でやるべきことは今までやってきたことと同じでいいんだ、と腑に落ちました。

確かに、マーケティングの根本的な概念は企業でも病院でも変わらなそうですね。逆に、企業と病院で違いを感じたことはありましたか?

病院は国家資格保有者が大半を占める組織です。「事務員はヒエラルキーの一番下だよ」と入職当初に先輩職員の方が仰いました。なかなか言いたいことも遠慮して言えないような雰囲気がありました。ただ、病院をただ運営していけば経営できていた時代ではなくなり、事務の力や考え方が必要とされ、立ち位置も少しずつ変わり始めた時期でもありました。

例えば、地域医療連携においてはどのような変化が出始めたのでしょうか?

地域医療連携室の役割も当初は、予約受付や開放病床、勉強会の支援がメインでした。それが、2006年に大腿骨頚部骨折地域連携パスが稼働しはじめたことをきっかけに、事務の活躍の場が広がっていきました。

当時のエピソードについて詳しく教えてください。

診療報酬が明確化したことも前向きにはたらき、院長との意見交換の中で地域連携パスの導入を進めることが決まりました。担当医師と私の2人で対応することになり、地域の回復期を担う医療機関に10院くらい集まっていただき会合を開きました。術後1週間後から受け入れ可能な病院、2週間後からなら受け入れ可能な病院があり、それぞれの病院で体制の違いがあることが分かりました。そして、周囲の病院が積極的に転院を受けてくれる事で話がまとまったのです。はじめは、院内の体制が整わないうちに他病院との連携を進めることを快く思っていなかった職員も、そこからはギアが入り頑張ってくださいました。クリニカルパスから地域連携パスになる効用と、地域医療連携の事務が関わる必要性を強く感じた出来事でした。

地域医療連携室の役割や立ち位置が明確になり、変化していくきっかけとなる出来事だったのですね。他にも印象に残る出来事はございますか?

2010年から企画した地域連携広報『みんなのくらちゅう(2011年に発刊)』です。地域連携パスが導入され、それまで自院ですべて完結していたのが、患者さんに転院していただく必要が出てきました。なんで転院しなきゃいけないの?何が良くなるの?という患者心理に寄り添う広報が必要になったのです。マーケティングでいうプル戦略です。メディアミックスの中では冊子で配布する手段が最も適していました。100%内製で年間2万部でスタートし、11年間継続して配布しました。院内のコミュニケーションはもちろんですが、患者さんやそのご家族とのコミュニケーションも重要です。それぞれを強制ではなく自発的に繋ぐ手法として、地域連携の切り口で展開したことで手応えがありました。外来看護師が逆紹介の際に使用したり、周囲の医療機関にも置いていただけたりするようになりました。患者さんからのリアクションも良く、厚生労働省が開催する第二回「上手な医療のかかり方アワード」にて、医政局長賞 特別賞を受賞することができました。

地域医療連携は自院と連携先、患者さんの橋渡し的な存在で、高いコミュニケーション能力はもちろんのこと様々なスキルが求められると思います。十河さんは特にどのスキルが必要だと思われますか?

マーケティング、中でも私は『視野角』という表現を使っているのですが、広い視点が必要だと思います。課題を解決するにも、自院完結型なのか、地域のどのエリアまで含めて解決するのかでやり方が全然違ってきます。データで語るための分析力、マーケティングを推進するためのマネジメント力も必要ですし、地域医療連携にはそもそも院内連携も必要なので、その接点を見つけてどう解決していくか、コミュニケーション力も必要だと思います。それらを実践していくために、診療情報管理士と病院経営管理士の勉強をしました。
地域医療連携室の業務は経営企画の業務と共通点があると思います。算定や医師の診療プロセスを見ながら、急性期と急性期後をどう繋いでいったら解決できるかを考えます。それは一つの診療科に限らず、例えば整形外科、麻酔科、総合診療、あるいは救急科、など病院が大規模組織になればなるほどそれぞれが繋がりにくくなっていきます。そこを地域医療連携の事務がストーリーに関わる人を集めて、どう解決していくかコーディネートしていくのですが、そのバックボーンとして「データで語る」ことが医師と客観的に話ができるポイントになります。疾患別のDPCの分析に加えマクロとミクロの視点を持って自院と地域をつなげることが必要です。難しい仕事だと思います。
倉敷中央病院では地域医療連携室の職員の半分が診療情報管理士の資格を取得しています。このケースは珍しく、全国では4%程度しかいないんです。病院事務の基礎力として、DPCデータが読めると地域の医療機関との役割分担が見えてきます。他の病院の地域連携担当者とも定量で語れるメリットがあります。さらに地域として医療連携をどのようにコーディネートするか、という発想が生まれてくるので大変役立つと思います。

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図表1:地域医療連携スキルマップ

恵寿総合病院の神野先生が連携実務者を「つなぎ人」と称しているように、地域医療連携は点と点を線で結び、その線を強固に、もしくは時流に合わせてつなぎ直す仕事だと思います。この考え方はマーケティングや広報の概念と通じるものがあると思いますが、十河さんにとってマーケティングとは何でしょうか?

ミッション・ビジョンを達成するための方法・考え方だと思います。 私は、地域医療連携に転用していますが、例えば院長や事務長でもそれぞれの立場でマーケティングの考え方や手法は使えるものだと思っています。

病院の事務職の方々の中には、医師とコミュニケーションを取ることに苦手意識を持っている方もいらっしゃるようです。十河さんは、医師とコミュニケーションを取ることに苦手意識を持っていた時期があったとのことですが、どのようなことに気を付けていますか?

先生方の想いや今どんな問題を抱えているのかを十分に理解すること、そして自分がそれに対してどういったお手伝いができるのかを常に考えて臨むようにしています。
例えば、先生方は自院完結型で考えている方が多く、地域完結型という観点で視野を広げようとした場合、地域の医療機関との太いパイプがない場合は、どうしてもご自身で解決しようとします。急性期とそれ以降を診る医療機関とで役割分担をした方がメリットもあるのですが、手間もかかるため自院完結型になってしまう傾向があります。その状況を理解した上で、平均在院日数などのデータを交えて先生にヒアリングしながら、解決策を一緒に探っていきます。そして他の医療機関に向けて勉強会を開いたり、紹介を増やしていくためのコーディネートをしたりする事で課題解決した経験があります。

十河さんの直近の課題についてお聞かせください。

リバーサイドは急性期以降を担う病院として、在宅看取りまでカバーしており、昨年から訪問診療ができる医師も配置されました。倉敷中央病院は超急性期を担っているため、急性期から在宅医療までをカバーできるという法人のミッションに基づいて行動できる力を持ちたいと思います。リバーサイドの抱える問題として、医師不足や事務職員の人材育成など課題は多くありますが、倉敷中央病院と同一法人である意義を共有して、組織を強くしていきたいと考えています。

十河さんが最終的に目指すミッションについて教えてください。

地域の患者の皆さま、そして職員から愛される病院にしていきたいです。そして、その上で急性期後を見る病院として、全国から注目され、かかりつけ病院として輝く存在になりたいです。そのためには経営的にもちゃんと利益を出せて、自分たちのやりたいことに投資ができる体質にしていきたいと思います。

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